2025年5月6日火曜日

日本学術会議法案に反対する会長声明 群馬弁護士会

 日本学術会議法案に反対する会長声明
1 .2025年3月7日、 政府は、日本学術会議法案(以下「法案」という)を国会に提出した。法案は、日本学術会議法(以下「現行法」という)を廃止し、現行の日本学術会議とは全く異なる組織としての法人「日本学術会議」(以下「法人」という)を新設するものである。しかし、その内容は、日本学術会議がナショナルアカデミーとして有すべき政治権力からの独立性・自律性を失わせ、憲法23条が保障する学問の自由を侵害するものであって、到底容認できない。
2.そもそも、この問題は、2020年10月1日、当時の管内閣総理大臣が日本学術会議の会員6名の任命を拒否したことに端を発している。この任命拒否について同内閣総理大臣は、その具体的理由を明らかにしないまま「組織全体の見直し」にまで言及していた。
 これに対して当会は、同年11月11日付「日本学術会議の会員任命拒否を撤回し、同会議の推薦どおりに任命するよう求める会長声明」において、①明治憲法下で政府が
学問を弾圧してきたことへの反省に基づいて現行法が制定されたこと、②学問の自由の保障のために日本学術会議の独立性と自律性が確保されていること、③任命拒否は
現行法7条2項に違反し、憲法23条の学問の自由を侵害するものであることを指摘し、速やかな任命を求めた。
 法案は、こうした違憲性・違法性が何ら払拭されないまま、むしろこれを糊塗するかのように提出されたものである。
3.現行法では「日本学術会議は、独立して……職務を行う」(3条柱書)とあり、職務の独立性が確保されているのに対して、法案に職務の独立性を定める文言はない。むし
ろ、法人に複数の機関を設けることにより、政府をはじめ外部からの介入を許容する体制が幾重にも作られている。
 すなわち、会員以外の者から選任される選定助言委員会が会員の選定方針に関して
意見を述べ(法案26条1項1号・31条4項)、会員以外の者から任命される運営助言委員会が法人の活動、運営等に関して意見を述べ(法案27条1項・36条3項)、内閣府に設置され、内閣総理大臣が委員を任命する日本学術会議評価委員会が法人の中期的な活動計画や業務の点検評価について意見を述べ(法案42条3項・51条)、内閣総理大臣が会員以外の者から委員を任命する監事が業務を監査し、調査を行うとされている(法案19条・23条)。
4.さらに、法案では、会員候補者の選定に当たっては、会員で構成される会員候補者選定委員会(法案25条3項)が「会員、大学、研究機関、学会、経済団体その他の民間の団体等の多様な関係者から推薦を求める」といった「必要な措置を講じなければなら」ず(法案30条2項)、「行政、産業界等との連携による活動」等の実績のある科学者が含まれるよう「配慮しなければならない」(法案30条4項3号)とされている。現行法が「優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し」(17条)としていることと比較すると、法案は、現行法にはない多くの制約を課すものといえる。
 これら各機関の設置・運用は、活動面における政府からの独立性、会員選考における独立性・自律性といったナショナルアカデミーの根幹を損なうものであり、学問の自由に対する重大な脅威となりかねない。
5.また、財源は、政府が「必要と認める金額を補助することができる」とするにとどまり(法案48条1項)、「国庫の負担」を明記する現行法1条3項からは大きく後退している。
6 .日本学術会議は、2021年4月22日、「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」と題する声明を発表し、その中で、各国のナショナルアカデミーが共通して備えている要件として、①学術的に国を代表する機関としての地位、②そのための公的資格の付与、③国家財政支出による安定した財政基盤、④活動面での政府からの独立、⑤会員選考における自主性・独立性があることを挙げ、日本学術会議がその役割を発揮するためにはこれらの5要件の制度的保障が不可欠であることを強調した。
 しかるに、法案は、これらの5要件を大きく逸脱しており、日本学術会議を国際水準に遠く及ばない存在へと変質させている。
7.よって、当会は、政府に対し、法案の撤回を要求するとともに、内閣総理大臣に対し、改めて2020年10月の学術会議会員候補者6名の任命拒否を是正してその正常化を図るよう求めるものである。

以 上
2025年4月21日
群馬弁護士会 会長 横地宏紀

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