2022年10月8日土曜日

JSAG秋季セミナー講演内容(2022年10月5日)

JSAG秋季講演会 (2022年10月5日) 
ZOOMセミナーの形で18時30分~20時に行われました。

「労働力不足と外国人労働者―技能実習生を中心として-」
講師 永田 瞬(高崎経済大学 教授)
司会 藤井 正希(群馬大学 社会情報学部 准教授)
講師 御本人による要旨と質問に対する応答

 日本の外国人労働者の中では、外国人技能実習生の伸び率が高い。外国人技能実習生は、中小零細業における基幹労働力となっている。こうした事実に対して、どうアプローチするべきか。外国人技能実習生が、中心的な労働力になっているのであれば、それにみあう処遇改善がなされるべきだが、実際には、3年間(あるいは5年間)の実習過程で最低賃金水準に張り付いている。なぜ、外国人技能実習生の処遇は改善されないのか。また失踪がなくならないのはなぜか。職場移動など労働者としての権利制限を行うことに正当性はあるのか。こうしたことを、二重労働市場論などの古典的な理論、そして、一時的移民労働者受け入れ論に関する賛成論・反対論を紹介することで、理論的に位置づけることを試みた。質疑応答では以下の点を議論した。

1)岸田政権下での外国人労働者政策の動向。
古川法務大臣が私的な勉強会を立ち上げ、技能実習制度の見直しに動いている。失踪や多額の借金を問題視しているが、どのような方向性に進むのかはわからない。

2)今後移民という形での受け入れは可能なのか。
移民という言葉のイデオロギー的性格から、政治的には忌避される傾向がある。ただし、2019年4月からの特定技能制度の導入で、家族呼び寄せや永住化は制度的には可能になった。単純労働力を正面から受け入れるのは日本で初めてである。

3)母国に帰ることが前提の技能実習制度、制度の趣旨にのっとって、母国でも日本と同じ仕事に従事することはできないのか。
 日本の技能実習制度の96.5%は団体監理型(2019年)である。海外に子会社を持つ企業単独型の受け入れは5%以下である。農業や縫製業など人手不足の産業での受け入れがメインなので、理想的な形での運用は難しい(企業単独型がないわけではないが、それが技能実習生の過半を占めることは想定しがたい)。

4)労働力不足であれば賃金が上がる。なぜ賃金が上がらないのか。大企業による内部留保の蓄積などもあるのではないか。
 外国人技能実習生を必要とする領域は主として中小・零細企業である。もともと集団就職の時代から女性の内職労働者など低賃金労働に依存している。内職労働者の高齢化や雇用労働者化によって人手不足が生じているので、賃金が上がらない。大企業の場合の下請けであれば、取引関係の重層化で十分な賃金が支払えない。

5)母国での50万円に及ぶ借金。3年間での返済ということだが、円安で日本の賃金下がる。魅力がなくなるのではないか。
 ベトナムの最低賃金は、ハノイなど最も高い第1地区で月2万円前後(2021年442万ドン、1ドン=約0.0045円で換算)である。単純計算で最低賃金を年収換算すると24万円である。日本円で50万円の借金はベトナム年収の2倍相当以上に相当する。これを返済できるのは、経済格差があるから。経済格差を根拠に借金をしても、我慢をして、3年間就労するモデルであるが、経済格差が縮小すれば持続できない。

6)韓国の雇用許可制。正面から外国人労働者を移民として受け入れている。日本ではできないのか。
 韓国の場合、労働市場テストでハローワークの人手不足を調査する。韓国内国人との競合がないことを確認して、移民労働者を受け入れる。しかも、政府主導でやっているので、民間企業の仲介業者のピンハネを少なくすることができる(なくなるわけではない)。その点で学ぶべき点もある。

文責 永田 瞬