2024年7月5日金曜日

JSAG夏季セミナーのお知らせ(確定版)


https://zoom.us/j/97092125141?pwd=gW4LxPS6Ov2sTJfarHq7w4dKIAJFl5.1
ミーティング ID: 970 9212 5141 パスコード: 52689425
 

2024年6月4日火曜日

日本科学者会議群馬支部( JSAG ) 総会記念セミナー要旨

「超国家的枠組みによるマイノリティの包摂と権利保護
  ―EU におけるロマ包摂政策を事例に―」

2024年5月30日(木)18時30分〜20時 
講師:土谷 岳史氏(高崎経済大学経済学部教授/専門 EU研究)

 本セミナーは、ヨーロッパにおける被差別集団であるロマを事例に、マイノリティ包摂という課題におけるEUの可能性を検討したものである。ロマはヨーロッパに1000万から1200万人程度存在するとされるマイノリティである。EU内にはおよそその半数が暮らしていると推定される。特に、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリーなど中東欧諸国に多く存在し、人口に占める割合も10%弱と高い。スペインやフランスなど西欧諸国にもロマは存在するが、人口に占める割合は低いこともあり、ロマの包摂は中東欧の問題との認識がEUでは強い。ロマの人々は非定住生活を送るとされるが、多くのロマは定住生活者であり、主流社会のなかで暮らしている。しかし、主流社会に溶け込んで暮らしているロマは、ロマだとわかると差別される恐れがあるため、不可視化されている。
 そのうえでロマの人々の状況を確認しておくと、貧困のリスクは極めて高い状況にあり、安心して暮らせるような住環境がない人も50%程度となっている。教育からの排除も大きな問題であり、差別がライフサイクルの様々な時点での排除を生み出し、それがほかの面での排除へとつながるという悪循環が形成されている。コロナ禍でもロマの人々は深刻な影響を受け、社会からの排除を経験した。また、ウクライナから避難民でもロマということで排除を受けた人たちもいた。現在でも以上のような深刻な状況に置かれているロマの人々の包摂について、EUではどのような対応を取ってきたのか。
EUがロマの包摂を政策課題としたのは、中東欧諸国の拡大過程においてであった。EU加盟の条件にロマの包摂が含まれたため、中東欧諸国は「ロマ包摂の10年(2005-2015)」を開始したが、EU加盟が実現すると大きく進まなくなり、課題が残されたままとなった。一部の加盟国は、ロマはヨーロッパのマイノリティであるとして、自国の責任を否定し、EUに包摂の責任を負わせようとした。このようななかで策定されたのがEU初のロマ包摂政策である「2020年までのロマ統合国家戦略のためのEU枠組み」であった。
 本枠組みは、ロマ包摂は加盟国の責任であると明示し、EUで目標を定め、加盟国の自発的な創意工夫と相互学習を促しながら政策実施を目指す、「OMC」と呼ばれるソフトなガヴァナンスの方式に則ったものであった。EU立法を通じた政策執行という通常の方式と比べると、法的拘束力はないものの、合意形成が容易であり、柔軟性をもった方式である。加盟国間で意見が割れていたり、強い反対意見がある場合にはEU立法は困難なこともあり、ソフトなガヴァナンスの有用性は高い。しかしながら本報告の観点からは、被差別マイノリティの包摂という、政策実施主体である加盟国自体に政治的意思が欠けている場合に、このようなソフトなガヴァナンスは実効性があるか、というのが問われる。
 果たしてその結果は、大きな反省が迫られるものであった。教育や保健といった分野では改善が見られたものの、住宅といった基本的サービス、そして差別については逆に状況が悪化したという回答の方が多かったのである。
 EUは本枠組みを見直すなかで、ロマの参加が欠如したパターナリズムに陥っていた点と、差別対策の欠如を問題として認識し、2020年からの「EUロマ戦略枠組み:平等、包摂、参加」を策定した。欧州議会が求めた新たなEU立法ではなく、ソフトなガヴァナンス方式を踏襲し、EUが設定する目標の明確化、指標の策定など、拘束力を強化したものとなった。EU立法を避けた理由は可決の可能性が見えないというものであり、ロマへの差別対策について、加盟国のなかに政治的意思を欠いている国が少なくないことが推測される。新枠組みでも加盟国に義務付けられた加盟国戦略が、EUの指針などを適切に反映したものが少ないことなどからも、政治的意識の欠如という課題が続いていることが見える。
 改善の可能性を左右するのはロマへの差別(反ジプシー主義)認識の改善であり、新枠組みではロマのホロコーストの記憶がひとつの重要な戦略手段となっていることが伺える。しかし、ホロコーストの記憶の政治はEUの東西で大きく分かれており、中東欧諸国はEU主導の記憶の政治を、コスモポリタニズムの押し付けとして反発し、バックラッシュが起こる危険性が指摘される(詳細は、拙稿「EUにおける記憶の政治」『高崎経済大学論集』第66巻第4号、2024年を参照されたい)。上述のように、ロマは中東欧諸国に多く存在しており、ロマ・ホロコーストの記憶の政治は西欧主導の記憶枠組みに依拠するものである。バックラッシュを避けつつ政策の実効性が担保されるかどうかが注目される。新枠組みを運用するなかでインクリメンタリズムによる改善が見られるか、特に拘束力の強化が実効性を生み出すかが今後注視されよう。一方で、ロマの側も一枚岩ではなく、EU政治で活動するエリートと一般のロマの人々との乖離も指摘される。EUの枠組みのもとでの加盟国の政策の相互作用がロマの間の結束を強化するかどうかも注目に値する点であろう。
 最後に、多数の質問をいただき、十分に答えることのできなかったものも多かった。今後の課題としつつ、質疑のなかで報告者が示唆を受けた点について簡単に触れておきたい。複数の国家にわかれて生きるロマは一国単位の対応では不十分な、国際的な取り組みが必要な事例だと考えられる。それは問題の視角によって、ヨーロッパにとどまらず日本も含めた世界的な課題の一部、またはひとつの現れとしても捉えられるかもしれない。EUに欠けている帝国主義、植民地主義への反省とかかわる問題と理解するそのとき、帝国であった日本もまた普遍的な包摂を推し進めるために協力や相互学習のパートナーとして協力を進めるべきであろう。

                       文責 講師本人 土谷岳史

2024年5月22日水曜日

第21回JJS主催 オンライン読者会のお知らせ

第21回 JJS主催 オンライン読者会
主題︓群⾺県に居住する外国⼈が抱える諸問題
⽇時︓2024年6⽉1⽇(⼟)14時〜16時(開場時間:13時30分)
開催⽅法︓オンライン(Zoom Meetingによる)
ゲスト︓藤井正希さん・中村宗之さん・⻘⽊武⽣さん(群⾺⽀部)
関連論⽂︓『⽇本の科学者』2024年4⽉号
JSAの会員は、参加無料です。 ふるって、ご参加ください。

https://us02web.zoom.us/j/88101591271?pwd=NFQ3U24zbng3TFZ5eFZGSzdHZ0VVQT09

ミーティング ID: 881 0159 1271

パスコード: 060543

 

 

 

2024年4月14日日曜日

日本科学者会議群馬支部( JSAG ) 総会記念セミナーのご案内

 テーマ:超国家的枠組みによるマイノリティの包摂と権利保護
    ―EUにおけるロマ包摂政策を事例に―
日 時:2024年5月30日(木)18時30分〜20時  参加無料
講 師:土谷岳史氏(高崎経済大学経済学部教授/EU研究)
場 所:ZOOMミーティング

https://zoom.us/j/96939687587?pwd=MStVM1Eyc2pSdDdEZSs2dHF1WUt6UT09
ミーティング ID: 969 3968 7587 パスコード: 52689425

概要:マイノリティの包摂や権利保護は重要な課題であるが、当該マイノリティが差別されているとき、その重要性はさらに大きくなる。しかし、その差別ゆえに克服が困難でもある。本報告ではヨーロッパで最大の被差別マイノリティであるロマを事例に、超国家的政体であるEUがどのようにロマの包摂に取り組んでいるのかを検討したい。その際、ロマの文化的特性の政治的社会的構築のされ方やEUと加盟国の関係について着目することで、EUのロマ包摂政策の在り方の変容とその理由を明らかにしたい。

2024年2月22日木曜日

2024年2月14日(水)JSAG冬季セミナー要旨

 日本科学者会議群馬支部・冬季セミナーは、2024年2月14日(水)18時30分より、「検証・群馬の森朝鮮人追悼碑裁判 ― 歴史修正主義とは?」と題した公開講演会を、藤井正希氏(群馬大学情報学部准教授・憲法学)を講師に招き、ズーム開催いたしました。司会は、高崎経済大学教授の永田 舜教授が行いました。なお、参加者は会員、一般市民、学生を含め12人でした。

 以下は、講師自身にまとめていただいた要旨です。

 群馬県立の都市公園「群馬の森」にある朝鮮人追悼碑の存廃をめぐって、8年間も争われた“群馬の森朝鮮人追悼碑裁判”は社会的にも、歴史的にも、法的にもきわめて注目に値するものだが、いまだ広く人びとの関心を集めるものとはなっていない。 しかし、この裁判は、日本人の歴史観そのものを問うものであり、“歴史修正主義”の持つ危険性や恐ろしさに強く警鐘を鳴らすものである。本セミナーは、本裁判の事案と判旨を概観するとともに、問題点を明らかにし、徹底討論するべく開催されたものである。
 群馬の森朝鮮人追悼碑は県により既に撤去されてしまったが、この事件の最大の問題点が、追悼碑の撤去を求める執拗な右翼の抗議に県が屈して、碑前で挙行された追悼式における些細な政治的発言(「強制連行」)を口実に許可条件違反ということにして、追悼碑を撤去したところにあることが明らかにされた。この点、山本知事の主張は、①守る会の「ルール違反」がすべてである。②「司法の場で議論し最高裁で結論が出た」終わった話である。③追悼碑が「紛争の原因」になってしまっているという3点にあるが、いずれも理由として成り立たないことも明確化された。
 群馬の森の次は、東京都の横網町公園、そして全国の追悼碑が次々と撤去され、最後の総仕上げが憲法改悪であり、歴史修正主義者の真の狙いはそこにあると思って間違いない。このように、群馬の森朝鮮人追悼碑をはじめとする追悼碑撤去問題は、「憲法改正問題」と深く関わっているのであり、だからこそ決して軽視してはならないのである。今回、山本知事が歴史修正主義者(改憲勢力)の不当な圧力に屈し、追悼碑を撤去してしまったことは、必ずや悪しき前例となり、今後に大きな禍根を残したと言えよう。
 以下、本セミナーに参加した若い学生の意見を紹介することにする。


 学生① セミナーに参加させていただき、ありがとうございました。今回のセミナーに参加して、「群馬の森公園」と「朝鮮人追悼碑」の存在を初めて知りました。私は、セミナーの内容を少し難しく感じ、理解が浅いところが出来てしまいました。完全な理解が出来たとまでは言いにくいです。可能な限り、理解を深めたいと思っております。一つの事例・出来事に対して様々な立場や意見があるということをセミナーから学ばせていただきました。今後は学んだことを活かして政治的な意見に耳を傾けて、自分なりの意見を持ってみようと思います。


 学生② このセミナーに参加して私は、政治家は民意にあらゆることで左右されるのが当然であると考えていたので、左右され過ぎるのは良くないという意見に驚きました。ですがその民意が正しいとは限らないことや誰が唱えたものなのかということで変わってくるという話を聞いて、納得しました。
 さらに、政治的中立とはそれから一切政治的なものを排除することではなく、賛成と反対どちらの意見も採用することであるという話にも驚きました。その上、行政の頒布物に載っている政治的な意見は行政の立場ではないという話にも驚きました。確かに賛成と反対どちらの意見も載せて、平等に扱うことが出来れば必然と中立となるかと合点しました。
 また、これまで私は、政治的なことにはあまり興味がなかったのですが、これからは選挙の時期以外でも政治に関心を持ってみようと思いました。手始めに右派と左派の区別をつけてみようと考えています。


 学生③ SNSでこの事件についてみることはあったが、経緯がよく分かっておらず、「約束を破ったのなら仕方ない」くらいに考えていたが、今回のセミナーで経緯や背景について知れてよかった。この問題の争点では「約束を破った」ことだけでなく「追悼碑が紛争を呼び込み公益に反するものであるか」が重要であると学ぶことができた。
 最初の数年で、約束を破って政治的発言をしてしまったのは、県に慰霊碑を撤去する大義名分を与えてしまったのでよくなかったと思うが、当時はそこまで考えが及ばなかったのかもしれないとは思う。また追悼碑の存在は近隣住民に何ら害を与えていないという点にも納得した。県は決断を下す前に追悼碑の存在が公益に害を与えているかということを具体的に検証すべきだったと思う。漠然と公益に反すると主張するだけでは不誠実であろう。


 学生④ セミナーへ参加させていただき、ありがとうございました。私の日常生活ではあまり聞かない話題でしたので、今回のセミナーは私にとって有意義な学びの機会になりました。そもそも、群馬県に「群馬の森」という都市公園があることや、そこに朝鮮人追悼碑があることを初めて知りました。長く裁判が行われていたという事実にとても驚いています。私を含め日本人が、いかに戦争に対して、引いては平和に対して、無関心であるかということを感じました。
 多少の知識はあっても、日本が他国民を虐げていた歴史を実感することは私には難しいです。しかし当時の日本によって生まれた苦しみを語り継いでいる国や地域、民族があるということを忘れてはいけないと思いました。今回のセミナーで扱われている追悼碑は、日本人が今も被爆の歴史に大切に向き合おうとしているように、朝鮮人も歴史を重く受け止めていることを表す一例であると思います。 

以上 文責 当日講師 藤井正希氏