2024年12月20日金曜日

JSAG秋季セミナー 丹治杉江氏 講演要旨

 JSAG秋季セミナー 今回は対面講演でした。 参加者13名 
場所 群馬県前橋市総合福祉会館第3会議室
2024年11月12日(火)17時30分~19時30分 講師 丹治杉江氏
(ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・ふくしま伝言館事務局長 ALPS処理汚染水放出差止訴訟事務局長)
演題:終わらない原発事故~福島被災地レポート                
何の落ち度もないのに原発事故被災・司法不当判決・汚染水放出による環境再汚染…三重被害者となった

はじめに
 東日本大震災とそれに続く東京電力福島第一原発事故から13年7か月。放射能事故は収束どころか、ますます深刻で複雑な事態となっています。被災地の「原発事故緊急事態宣言」は発せられたまま、福島県は公衆の被ばく限度として国際的に勧告されている年1ミリシーベルトの20倍、20m㏜を容認強要。法治国家で許されるのでしょうか。
 政府・マスメディアは「復興」を強調しますが「復旧」さえも儘ならない、学校も、医療機関もスーパーもガソリンスタンドも介護施設もまともにない地域に被災者が戻れる筈はなく、避難指示地域の帰還率は10%程度。将来の町の未来像は描けないのが実態です。
 福島第一原発では、「廃炉」の最終形が見通せず、作業員の被ばく事故が相次いでいます。デブリ0.7g取り出しに2兆円!事故後13年でこの事態。できもしない廃炉をできるかのように装う「やるやる詐欺」に騙される一方で、福島事故原発の二次災害リスクは高まるばかりです。汚染水海洋投棄に伴う作業員の深刻な被ばく事故も続いています。
 一方で、元日に発生した能登半島地震では、震源近くに立地する志賀原発(停止中)も強い揺れと3メートルの津波に襲われ、変圧器から約2万リットルの油が漏れ、外部電源の一部から受電ができなくなるなどのトラブルが生じました。道路の寸断、海岸線の隆起、放射線モニタリングポストの故障等、改めて原発施設の脆弱性と放射能から「逃げる・遮断する・洗う」という「避難」「防御」計画の非現実性を浮き彫りにしました。
 にもかかわらず、石破首相は岸田政権のGX政策を強力に推し進めようとしています。どんな革新炉でも「使用済み核燃料」の安全な処理、放射能をなくすことは原理的に不可能なのです。「安全が確認された原発再稼働」という「安全の基準」とは何でしょうか?
 福島事故被害は続いています。放射性物質の拡散と、被害の実相を伝える人々に「風評加害者」レッテルを張り、事故の終息/被災者切り捨てを進める原子力複合体を告発します。

1)福島被災地の状況
①ふるさとに戻れない住民は8万人余、今後100年は人が住めなくなってしまった地域は7町村にわたり309㌔㎡、東京23区の半分の広さに及びます。震災前には病院は8つありましたが、 再開したのは2つ。診療所は61から32に減りました。学校については、小学校・中学校は震災前にあわせて41校ありましたが、現在は23校です。県立高校も8校から2校(6校は休校)。これらの数字には原発事故の過酷さ、異常さ、事故が終わってない事が示されてます。
②帰還困難区域に「特定再生復興拠点」?!帰還か避難継続か。分断と矛盾を拡大。
③原発事故避難者などの関連死は2,335人。(直接死1600人)関連自殺者はわかっているだけで119人。孤独死激増。子ども甲状腺がん問題は第2次検査では高線量地域での発生が顕著。事故10年後から始まるとされた原発事故由来の「心筋梗塞、多臓器ガン」の発症など、静かにしかし確実に健康被害が始まっています。
④福島県の産業もまだら状に「特需景気」もあるものの事故前には戻っていない。農業産出額は国の支援もあり3.11前の90%まで回復している物もあるが、林業産出額は80%(山菜・キノコの出荷制限16県に及んでいる)。漁業では沿岸魚業の水揚げ高は20%台で厳しいまま。今後、長期間の「汚染水放出」の影響が懸念される。
⑤コンビニ・スーパー・ガソリンスタンド(日曜休業多し)はわずかながら開店。床屋はあっても、病院も美容院も介護施設も保育園も1~2か所。若者がいない。子育て世代がいない。地域社会はまともに機能していない。

2)「廃炉中長期ロードマップ」第5回改訂、40年で終わらない
◎不都合な真実・・・「廃炉」「避難」「ボランティアの放射能被爆」に関する法律が無い
■「廃炉・廃棄物」30年後の責任者は?、 70年80兆円越え?、税金と電気代!

終らない廃炉・危険なフクイチ
廃炉作業労働者は1日約4,000人が年間被ばく量50m㏜、5年で100m㏜上限まで働かされるのです。「基準」は非人道的。しかし、作業員が居なければ廃炉はできない。
①デブリ問題・・・メルトダウンを起こした1~3号機の全量推定880t取り出せても最終処分の見通しはない。今後の28年で取り出すとしたら、毎日休みなく80㌔ずつ取り出さなくてはならない計画。13年間で、デブリ0.7gつまみだしで大喜び?
➁原子炉格納容器蓋・・・・桁違いのセシウム付着が判明
1~3号機の格納容器上蓋(シールドプラグ)に途方もない高濃度の放射性物質が付着していることを発表。その量は3基合計で50.1PBq∼最大70P㏃。※ P=ペタ・・・1,000兆Bq(ベクレル) 「7京問題」と呼ばれる。3.11拡散量の23倍以上。
③廃炉に伴い発生する「原子炉建屋構造物や制御棒」など「低レベル」L1放射性廃棄物とはいえ、かなりの高線量廃棄物。総量28万㌧、規制委員会規制基準ではすべて地下70メートルより深く埋めて3~400年は電力会社、のち10万年は隔離保管。これは北海道寿都町で話題の高レベル廃棄物とは別の問題。参:1600年関ヶ原の闘い
④中間貯蔵施設(大熊町・双葉町16k㎡)(2,200万トン!)、30年後どうする?
⑤1号機の土台(ペデスタン)損傷!燃料プールに倒壊したら最悪事故に。鉄筋コンクリートの円筒形で、厚さ1.2メートル、内側の直径は5メートル。核燃料が入っていた重さ440トンの圧力容器を支えているが、壁面が床から高さ1メートルにわたって全周でコンクリートがなくなり、鉄筋が露出。事故時の溶融燃料の熱で崩壊した可能性がある。土台外周の床付近は堆積物が積もって確認できず、損傷の奥行きは不明。
⑥たまり続けるALPS処理後、こし取られた汚泥状の「スラリー」の処分方法がない。
ストロンチウムやセシウム、数千Bq(ベクレル)の高濃度汚染物。2013年からたまり続けて現在数百トン。容器の劣化も進む中、処分方法がない。
 
3)ALPS処理汚染水・海はゴミ捨て場ではない!プラスチックはダメで放射能はいいの?
 デブリある限り、地下水の流入を止めない限り、汚染水発生し、放出は続く。現在は90~100t/日発生。放出は3月までで3万1200tでタンク約30基分だが、増える量は約20基分。実質10基分しか減らない。海洋環境は汚染されつづける。
 タンク1000基にたまった130万㌧!汚染水を海洋投棄することが「福島の復興」に役立つのか!廃炉を進める為に必要なのか!IAEAは国際的中立の第三者機関か。

■9月8日、11月9日福島地裁に「海洋放出差止」訴訟提起
「ALPS処理汚染水」の海洋放出によって「二重の被害」を受けることになる。しかも今回の被害は国や東電の故意によるもので、新たな加害行為だ。
・海洋放出は非科学的!・・・・六ケ所村再処理工場の汚染水問題が見え隠れ。海産物の体内蓄積や環境への影響が専門家から懸念。海水で薄めても総量は同じ。
・2015年「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」という約束反故は民主主義の破壊行為であり、今後の福島廃炉に伴う放射性廃棄物の処理の合意形成の試金石。「放射性物質」を故意に、人類共有の資産であるに流すという行為は、法律以前の平穏的生活権侵害であり道徳性・倫理感の欠如、平穏生活圏の侵害です。賠償金を用意しなければ行えない「海洋投棄」は即刻中止すべき、と、怒りをもって福島地裁に提訴。

この海洋投棄案には対案がある
①10万トン級大型タンクの建設による長期保管や、モルタル固化処分案
➁地下水を遮断できる「広域遮水壁」案、流入を止める集水井戸。

◆現在のダダ漏れ凍土壁345億円、維持費10億円・・・広域遮水壁は半額で作れる。
・廃炉まで70年余。被害、81兆円という試算もある。たとえ汚染水海洋放出しても、長期の凍土壁の寿命も心配されている。まずは発生を止めることが重要。

4)真の復興を求めて・・・「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想」
・新しい産業による新しいまちづくりで私たちが願う「ふるさと復興」は出来ない
・膨大な復興予算投入=惨事便乗型大型開発、ロボット開発に隠れた「軍事産業研究場」
・原発事故を利用して原子力ムラが「もうひと儲け」でしかありません。

5)減災・防災の立場から「原発稼働」ありえない!ゆるさない!!
・災害列島日本111の活火山 54基の原発は稼働しようがしまいが依然存在
・地震 異常気象 コロナ・・・「危険の予測と防御」「人道的避難」は国民的課題

6)原発事故被災者民事訴訟
・全国30余訴訟、被害者の権利回復、事故原因解明、救済を求めている。
・2022年6月17日最高裁は「想定外の津波」に逃げ込み「国の責任」を免罪。
・過去の責任の否定は、将来の義務の放棄。あの過酷事故の教訓や反省は?

《最後に》
・原発はそもそも憲法違反施設であり「核発電」。人口が少なく産業がない町なら迷惑・危険施設建設OKなのか。過疎村に金さえ投げ込めば、無理が通り道理が引っ込む?
・日本の原子力安全規制は、事故に責任は持たない、原子力推進側と一体の体制であり、「泥棒に十手を持たせる」のと同じとまで言われています。
・また、被災者を切り捨て、国の事故責任を否定し、再稼働に力を貸す司法の不正義は許せません。
・地震大国原発「耐震基準」600~1000ガル。三井ホーム5115ガル、住友林業3406ガル。今、新規原発の建設費用を含むもろもろのコストを事業者が発電前から徴収できるようにする「RABモデル」という制度が導入されようとしています。原発は国民にとってとんでもない負債なのです。SDGsや社会保障等を充実させても、一度原発事故が起きたらすべて終わりです。
・原発は核兵器製造の技術と表裏一体。プルトニウム製造工場です。私達は、次世代に、自らが解決できない重大な負債・課題を引き渡そうとしています。
・原発は嘘、隠蔽、札束、強権で動かし、「安全神話」は一貫した政・官・財・学・マスコミ、さらに司法の強力な布陣で作り上げられました。原発はクリーンでもグリーンでもありません。ウラン採掘から燃料加工、原発の運転廃棄物処理、廃炉に至る間まで、環境を汚染し労働者の被ばくを伴います。
・今原発は電力供給量5%程度。再生可能エネの4分の一です。節電と再生可能エネへの転換、蓄電池や電気の融通システムなど、原発なくても電気は足ります。
「無知は罪。無口はもっと罪。」  文責 丹治杉江



 

2024年10月11日金曜日

JSAG秋期セミナーのお知らせ 11月12日(火)

    今回は対面参加のみです。ふるってご参加ください


 

日本科学者会議群馬支部(JSAG)夏季セミナー 要旨

日本科学者会議群馬支部(JSAG)夏季セミナー
2024年8月8日(木)18時30分〜20時 ZOOMオンラインセミナーにて夏季セミナーをおこないました。講師は、群馬計理・税理士 清水耕児氏でした。
以下本人による要旨を掲載します。

消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)  

1、消費税の仕組みについて
 消費税は消費者(事業者も含む)が仕入れや経費などの購入の時に、本体価格と共に事業者に預けます。販売した事業者は売上の時に本体価格と共に消費税を預かります。預かった消費税から預けた消費税を差引きし(納税額計算)預かった消費税が多ければ消費税額を納税し、預けた消費税が多ければ消費税額が還付されます。

2、インボイス制度
 インボイス制度導入(令和5年10月1日)前では、預けた消費税(仕入税額)として、一定の書類の保存があれば納税額計算に含めることが出来ました。つまり、免税事業者からの仕入れでも買い手は納税額計算に含めることが可能でした。しかし、インボイス制度導入後はインボイスが無ければこの計算に含めることが出来なくなりました。
 インボイスとは「適格請求書」のことをいいます。通常の「請求書」との決定的な違いは「事業者登録番号」の有無です。インボイスを発行することが出来るのは税務署に「適格請求書等発行事業者の登録申請書」を提出した事業者だけです。免税事業者はインボイスを発行することはできませんが、この申請によりインボイス事業者になることが出来ます。インボイス事業者は納税義務の免除を受けることはできません。
 請求書にこの登録番号が無ければ納税額計算に含めることができないので、購入の時に消費税を預けている分、2重に消費税を負担していることになります。結果的に増税に繋がっていく制度です。 

3、インボイスの問題点
・免税事業者がインボイス登録して登録番号は貰えたが、消費税を納めるとは知らなかった。
・登録すれば納付書が税務署から届く、所得税申告の還付金と勝手に相殺されると勘違い。
・免税事業者がインボイス登録したが約17万人の無申告事業者が発生。
・事業者間の取引トラブル。どちらが消費税分を負担するのか。値決めの問題に関わること。 

まとめ 

 インボイス制度は実務には馴染まない。仕組みも複雑で問題の多い制度である。

2024年7月5日金曜日

JSAG夏季セミナーのお知らせ(確定版)


https://zoom.us/j/97092125141?pwd=gW4LxPS6Ov2sTJfarHq7w4dKIAJFl5.1
ミーティング ID: 970 9212 5141 パスコード: 52689425
 

2024年6月4日火曜日

日本科学者会議群馬支部( JSAG ) 総会記念セミナー要旨

「超国家的枠組みによるマイノリティの包摂と権利保護
  ―EU におけるロマ包摂政策を事例に―」

2024年5月30日(木)18時30分〜20時 
講師:土谷 岳史氏(高崎経済大学経済学部教授/専門 EU研究)

 本セミナーは、ヨーロッパにおける被差別集団であるロマを事例に、マイノリティ包摂という課題におけるEUの可能性を検討したものである。ロマはヨーロッパに1000万から1200万人程度存在するとされるマイノリティである。EU内にはおよそその半数が暮らしていると推定される。特に、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリーなど中東欧諸国に多く存在し、人口に占める割合も10%弱と高い。スペインやフランスなど西欧諸国にもロマは存在するが、人口に占める割合は低いこともあり、ロマの包摂は中東欧の問題との認識がEUでは強い。ロマの人々は非定住生活を送るとされるが、多くのロマは定住生活者であり、主流社会のなかで暮らしている。しかし、主流社会に溶け込んで暮らしているロマは、ロマだとわかると差別される恐れがあるため、不可視化されている。
 そのうえでロマの人々の状況を確認しておくと、貧困のリスクは極めて高い状況にあり、安心して暮らせるような住環境がない人も50%程度となっている。教育からの排除も大きな問題であり、差別がライフサイクルの様々な時点での排除を生み出し、それがほかの面での排除へとつながるという悪循環が形成されている。コロナ禍でもロマの人々は深刻な影響を受け、社会からの排除を経験した。また、ウクライナから避難民でもロマということで排除を受けた人たちもいた。現在でも以上のような深刻な状況に置かれているロマの人々の包摂について、EUではどのような対応を取ってきたのか。
EUがロマの包摂を政策課題としたのは、中東欧諸国の拡大過程においてであった。EU加盟の条件にロマの包摂が含まれたため、中東欧諸国は「ロマ包摂の10年(2005-2015)」を開始したが、EU加盟が実現すると大きく進まなくなり、課題が残されたままとなった。一部の加盟国は、ロマはヨーロッパのマイノリティであるとして、自国の責任を否定し、EUに包摂の責任を負わせようとした。このようななかで策定されたのがEU初のロマ包摂政策である「2020年までのロマ統合国家戦略のためのEU枠組み」であった。
 本枠組みは、ロマ包摂は加盟国の責任であると明示し、EUで目標を定め、加盟国の自発的な創意工夫と相互学習を促しながら政策実施を目指す、「OMC」と呼ばれるソフトなガヴァナンスの方式に則ったものであった。EU立法を通じた政策執行という通常の方式と比べると、法的拘束力はないものの、合意形成が容易であり、柔軟性をもった方式である。加盟国間で意見が割れていたり、強い反対意見がある場合にはEU立法は困難なこともあり、ソフトなガヴァナンスの有用性は高い。しかしながら本報告の観点からは、被差別マイノリティの包摂という、政策実施主体である加盟国自体に政治的意思が欠けている場合に、このようなソフトなガヴァナンスは実効性があるか、というのが問われる。
 果たしてその結果は、大きな反省が迫られるものであった。教育や保健といった分野では改善が見られたものの、住宅といった基本的サービス、そして差別については逆に状況が悪化したという回答の方が多かったのである。
 EUは本枠組みを見直すなかで、ロマの参加が欠如したパターナリズムに陥っていた点と、差別対策の欠如を問題として認識し、2020年からの「EUロマ戦略枠組み:平等、包摂、参加」を策定した。欧州議会が求めた新たなEU立法ではなく、ソフトなガヴァナンス方式を踏襲し、EUが設定する目標の明確化、指標の策定など、拘束力を強化したものとなった。EU立法を避けた理由は可決の可能性が見えないというものであり、ロマへの差別対策について、加盟国のなかに政治的意思を欠いている国が少なくないことが推測される。新枠組みでも加盟国に義務付けられた加盟国戦略が、EUの指針などを適切に反映したものが少ないことなどからも、政治的意識の欠如という課題が続いていることが見える。
 改善の可能性を左右するのはロマへの差別(反ジプシー主義)認識の改善であり、新枠組みではロマのホロコーストの記憶がひとつの重要な戦略手段となっていることが伺える。しかし、ホロコーストの記憶の政治はEUの東西で大きく分かれており、中東欧諸国はEU主導の記憶の政治を、コスモポリタニズムの押し付けとして反発し、バックラッシュが起こる危険性が指摘される(詳細は、拙稿「EUにおける記憶の政治」『高崎経済大学論集』第66巻第4号、2024年を参照されたい)。上述のように、ロマは中東欧諸国に多く存在しており、ロマ・ホロコーストの記憶の政治は西欧主導の記憶枠組みに依拠するものである。バックラッシュを避けつつ政策の実効性が担保されるかどうかが注目される。新枠組みを運用するなかでインクリメンタリズムによる改善が見られるか、特に拘束力の強化が実効性を生み出すかが今後注視されよう。一方で、ロマの側も一枚岩ではなく、EU政治で活動するエリートと一般のロマの人々との乖離も指摘される。EUの枠組みのもとでの加盟国の政策の相互作用がロマの間の結束を強化するかどうかも注目に値する点であろう。
 最後に、多数の質問をいただき、十分に答えることのできなかったものも多かった。今後の課題としつつ、質疑のなかで報告者が示唆を受けた点について簡単に触れておきたい。複数の国家にわかれて生きるロマは一国単位の対応では不十分な、国際的な取り組みが必要な事例だと考えられる。それは問題の視角によって、ヨーロッパにとどまらず日本も含めた世界的な課題の一部、またはひとつの現れとしても捉えられるかもしれない。EUに欠けている帝国主義、植民地主義への反省とかかわる問題と理解するそのとき、帝国であった日本もまた普遍的な包摂を推し進めるために協力や相互学習のパートナーとして協力を進めるべきであろう。

                       文責 講師本人 土谷岳史

2024年5月22日水曜日

第21回JJS主催 オンライン読者会のお知らせ

第21回 JJS主催 オンライン読者会
主題︓群⾺県に居住する外国⼈が抱える諸問題
⽇時︓2024年6⽉1⽇(⼟)14時〜16時(開場時間:13時30分)
開催⽅法︓オンライン(Zoom Meetingによる)
ゲスト︓藤井正希さん・中村宗之さん・⻘⽊武⽣さん(群⾺⽀部)
関連論⽂︓『⽇本の科学者』2024年4⽉号
JSAの会員は、参加無料です。 ふるって、ご参加ください。

https://us02web.zoom.us/j/88101591271?pwd=NFQ3U24zbng3TFZ5eFZGSzdHZ0VVQT09

ミーティング ID: 881 0159 1271

パスコード: 060543

 

 

 

2024年4月14日日曜日

日本科学者会議群馬支部( JSAG ) 総会記念セミナーのご案内

 テーマ:超国家的枠組みによるマイノリティの包摂と権利保護
    ―EUにおけるロマ包摂政策を事例に―
日 時:2024年5月30日(木)18時30分〜20時  参加無料
講 師:土谷岳史氏(高崎経済大学経済学部教授/EU研究)
場 所:ZOOMミーティング

https://zoom.us/j/96939687587?pwd=MStVM1Eyc2pSdDdEZSs2dHF1WUt6UT09
ミーティング ID: 969 3968 7587 パスコード: 52689425

概要:マイノリティの包摂や権利保護は重要な課題であるが、当該マイノリティが差別されているとき、その重要性はさらに大きくなる。しかし、その差別ゆえに克服が困難でもある。本報告ではヨーロッパで最大の被差別マイノリティであるロマを事例に、超国家的政体であるEUがどのようにロマの包摂に取り組んでいるのかを検討したい。その際、ロマの文化的特性の政治的社会的構築のされ方やEUと加盟国の関係について着目することで、EUのロマ包摂政策の在り方の変容とその理由を明らかにしたい。

2024年2月22日木曜日

2024年2月14日(水)JSAG冬季セミナー要旨

 日本科学者会議群馬支部・冬季セミナーは、2024年2月14日(水)18時30分より、「検証・群馬の森朝鮮人追悼碑裁判 ― 歴史修正主義とは?」と題した公開講演会を、藤井正希氏(群馬大学情報学部准教授・憲法学)を講師に招き、ズーム開催いたしました。司会は、高崎経済大学教授の永田 舜教授が行いました。なお、参加者は会員、一般市民、学生を含め12人でした。

 以下は、講師自身にまとめていただいた要旨です。

 群馬県立の都市公園「群馬の森」にある朝鮮人追悼碑の存廃をめぐって、8年間も争われた“群馬の森朝鮮人追悼碑裁判”は社会的にも、歴史的にも、法的にもきわめて注目に値するものだが、いまだ広く人びとの関心を集めるものとはなっていない。 しかし、この裁判は、日本人の歴史観そのものを問うものであり、“歴史修正主義”の持つ危険性や恐ろしさに強く警鐘を鳴らすものである。本セミナーは、本裁判の事案と判旨を概観するとともに、問題点を明らかにし、徹底討論するべく開催されたものである。
 群馬の森朝鮮人追悼碑は県により既に撤去されてしまったが、この事件の最大の問題点が、追悼碑の撤去を求める執拗な右翼の抗議に県が屈して、碑前で挙行された追悼式における些細な政治的発言(「強制連行」)を口実に許可条件違反ということにして、追悼碑を撤去したところにあることが明らかにされた。この点、山本知事の主張は、①守る会の「ルール違反」がすべてである。②「司法の場で議論し最高裁で結論が出た」終わった話である。③追悼碑が「紛争の原因」になってしまっているという3点にあるが、いずれも理由として成り立たないことも明確化された。
 群馬の森の次は、東京都の横網町公園、そして全国の追悼碑が次々と撤去され、最後の総仕上げが憲法改悪であり、歴史修正主義者の真の狙いはそこにあると思って間違いない。このように、群馬の森朝鮮人追悼碑をはじめとする追悼碑撤去問題は、「憲法改正問題」と深く関わっているのであり、だからこそ決して軽視してはならないのである。今回、山本知事が歴史修正主義者(改憲勢力)の不当な圧力に屈し、追悼碑を撤去してしまったことは、必ずや悪しき前例となり、今後に大きな禍根を残したと言えよう。
 以下、本セミナーに参加した若い学生の意見を紹介することにする。


 学生① セミナーに参加させていただき、ありがとうございました。今回のセミナーに参加して、「群馬の森公園」と「朝鮮人追悼碑」の存在を初めて知りました。私は、セミナーの内容を少し難しく感じ、理解が浅いところが出来てしまいました。完全な理解が出来たとまでは言いにくいです。可能な限り、理解を深めたいと思っております。一つの事例・出来事に対して様々な立場や意見があるということをセミナーから学ばせていただきました。今後は学んだことを活かして政治的な意見に耳を傾けて、自分なりの意見を持ってみようと思います。


 学生② このセミナーに参加して私は、政治家は民意にあらゆることで左右されるのが当然であると考えていたので、左右され過ぎるのは良くないという意見に驚きました。ですがその民意が正しいとは限らないことや誰が唱えたものなのかということで変わってくるという話を聞いて、納得しました。
 さらに、政治的中立とはそれから一切政治的なものを排除することではなく、賛成と反対どちらの意見も採用することであるという話にも驚きました。その上、行政の頒布物に載っている政治的な意見は行政の立場ではないという話にも驚きました。確かに賛成と反対どちらの意見も載せて、平等に扱うことが出来れば必然と中立となるかと合点しました。
 また、これまで私は、政治的なことにはあまり興味がなかったのですが、これからは選挙の時期以外でも政治に関心を持ってみようと思いました。手始めに右派と左派の区別をつけてみようと考えています。


 学生③ SNSでこの事件についてみることはあったが、経緯がよく分かっておらず、「約束を破ったのなら仕方ない」くらいに考えていたが、今回のセミナーで経緯や背景について知れてよかった。この問題の争点では「約束を破った」ことだけでなく「追悼碑が紛争を呼び込み公益に反するものであるか」が重要であると学ぶことができた。
 最初の数年で、約束を破って政治的発言をしてしまったのは、県に慰霊碑を撤去する大義名分を与えてしまったのでよくなかったと思うが、当時はそこまで考えが及ばなかったのかもしれないとは思う。また追悼碑の存在は近隣住民に何ら害を与えていないという点にも納得した。県は決断を下す前に追悼碑の存在が公益に害を与えているかということを具体的に検証すべきだったと思う。漠然と公益に反すると主張するだけでは不誠実であろう。


 学生④ セミナーへ参加させていただき、ありがとうございました。私の日常生活ではあまり聞かない話題でしたので、今回のセミナーは私にとって有意義な学びの機会になりました。そもそも、群馬県に「群馬の森」という都市公園があることや、そこに朝鮮人追悼碑があることを初めて知りました。長く裁判が行われていたという事実にとても驚いています。私を含め日本人が、いかに戦争に対して、引いては平和に対して、無関心であるかということを感じました。
 多少の知識はあっても、日本が他国民を虐げていた歴史を実感することは私には難しいです。しかし当時の日本によって生まれた苦しみを語り継いでいる国や地域、民族があるということを忘れてはいけないと思いました。今回のセミナーで扱われている追悼碑は、日本人が今も被爆の歴史に大切に向き合おうとしているように、朝鮮人も歴史を重く受け止めていることを表す一例であると思います。 

以上 文責 当日講師 藤井正希氏