2024年2月22日木曜日

2024年2月14日(水)JSAG冬季セミナー要旨

 日本科学者会議群馬支部・冬季セミナーは、2024年2月14日(水)18時30分より、「検証・群馬の森朝鮮人追悼碑裁判 ― 歴史修正主義とは?」と題した公開講演会を、藤井正希氏(群馬大学情報学部准教授・憲法学)を講師に招き、ズーム開催いたしました。司会は、高崎経済大学教授の永田 舜教授が行いました。なお、参加者は会員、一般市民、学生を含め12人でした。

 以下は、講師自身にまとめていただいた要旨です。

 群馬県立の都市公園「群馬の森」にある朝鮮人追悼碑の存廃をめぐって、8年間も争われた“群馬の森朝鮮人追悼碑裁判”は社会的にも、歴史的にも、法的にもきわめて注目に値するものだが、いまだ広く人びとの関心を集めるものとはなっていない。 しかし、この裁判は、日本人の歴史観そのものを問うものであり、“歴史修正主義”の持つ危険性や恐ろしさに強く警鐘を鳴らすものである。本セミナーは、本裁判の事案と判旨を概観するとともに、問題点を明らかにし、徹底討論するべく開催されたものである。
 群馬の森朝鮮人追悼碑は県により既に撤去されてしまったが、この事件の最大の問題点が、追悼碑の撤去を求める執拗な右翼の抗議に県が屈して、碑前で挙行された追悼式における些細な政治的発言(「強制連行」)を口実に許可条件違反ということにして、追悼碑を撤去したところにあることが明らかにされた。この点、山本知事の主張は、①守る会の「ルール違反」がすべてである。②「司法の場で議論し最高裁で結論が出た」終わった話である。③追悼碑が「紛争の原因」になってしまっているという3点にあるが、いずれも理由として成り立たないことも明確化された。
 群馬の森の次は、東京都の横網町公園、そして全国の追悼碑が次々と撤去され、最後の総仕上げが憲法改悪であり、歴史修正主義者の真の狙いはそこにあると思って間違いない。このように、群馬の森朝鮮人追悼碑をはじめとする追悼碑撤去問題は、「憲法改正問題」と深く関わっているのであり、だからこそ決して軽視してはならないのである。今回、山本知事が歴史修正主義者(改憲勢力)の不当な圧力に屈し、追悼碑を撤去してしまったことは、必ずや悪しき前例となり、今後に大きな禍根を残したと言えよう。
 以下、本セミナーに参加した若い学生の意見を紹介することにする。


 学生① セミナーに参加させていただき、ありがとうございました。今回のセミナーに参加して、「群馬の森公園」と「朝鮮人追悼碑」の存在を初めて知りました。私は、セミナーの内容を少し難しく感じ、理解が浅いところが出来てしまいました。完全な理解が出来たとまでは言いにくいです。可能な限り、理解を深めたいと思っております。一つの事例・出来事に対して様々な立場や意見があるということをセミナーから学ばせていただきました。今後は学んだことを活かして政治的な意見に耳を傾けて、自分なりの意見を持ってみようと思います。


 学生② このセミナーに参加して私は、政治家は民意にあらゆることで左右されるのが当然であると考えていたので、左右され過ぎるのは良くないという意見に驚きました。ですがその民意が正しいとは限らないことや誰が唱えたものなのかということで変わってくるという話を聞いて、納得しました。
 さらに、政治的中立とはそれから一切政治的なものを排除することではなく、賛成と反対どちらの意見も採用することであるという話にも驚きました。その上、行政の頒布物に載っている政治的な意見は行政の立場ではないという話にも驚きました。確かに賛成と反対どちらの意見も載せて、平等に扱うことが出来れば必然と中立となるかと合点しました。
 また、これまで私は、政治的なことにはあまり興味がなかったのですが、これからは選挙の時期以外でも政治に関心を持ってみようと思いました。手始めに右派と左派の区別をつけてみようと考えています。


 学生③ SNSでこの事件についてみることはあったが、経緯がよく分かっておらず、「約束を破ったのなら仕方ない」くらいに考えていたが、今回のセミナーで経緯や背景について知れてよかった。この問題の争点では「約束を破った」ことだけでなく「追悼碑が紛争を呼び込み公益に反するものであるか」が重要であると学ぶことができた。
 最初の数年で、約束を破って政治的発言をしてしまったのは、県に慰霊碑を撤去する大義名分を与えてしまったのでよくなかったと思うが、当時はそこまで考えが及ばなかったのかもしれないとは思う。また追悼碑の存在は近隣住民に何ら害を与えていないという点にも納得した。県は決断を下す前に追悼碑の存在が公益に害を与えているかということを具体的に検証すべきだったと思う。漠然と公益に反すると主張するだけでは不誠実であろう。


 学生④ セミナーへ参加させていただき、ありがとうございました。私の日常生活ではあまり聞かない話題でしたので、今回のセミナーは私にとって有意義な学びの機会になりました。そもそも、群馬県に「群馬の森」という都市公園があることや、そこに朝鮮人追悼碑があることを初めて知りました。長く裁判が行われていたという事実にとても驚いています。私を含め日本人が、いかに戦争に対して、引いては平和に対して、無関心であるかということを感じました。
 多少の知識はあっても、日本が他国民を虐げていた歴史を実感することは私には難しいです。しかし当時の日本によって生まれた苦しみを語り継いでいる国や地域、民族があるということを忘れてはいけないと思いました。今回のセミナーで扱われている追悼碑は、日本人が今も被爆の歴史に大切に向き合おうとしているように、朝鮮人も歴史を重く受け止めていることを表す一例であると思います。 

以上 文責 当日講師 藤井正希氏