2020年11月27日金曜日

JSA秋季セミナー

先日行ったJSAG秋季ズームセミナーのご紹介をします。事情があり、ご案内が随分遅れました。JSA秋季セミナーは2020年10月21日(水)に行われました。今後外国人労働者の問題を継続的に取り扱う予定です。次回の予定の詳細が決まりましたが、このHPにてご紹介します。

 
 

遅くなりましたが、当日の内容をHPにて、2021年1月5日付で掲載します。

移民の基礎知識を学ぶ  - 群馬における受け入れと統合の理解に向けて -

JSAG秋季セミナー  2020年10月21日(ZOOMによるリモートセミナー)
中村宗之(立正大学経済学部准教授)

 今回のJSAGセミナー「移民の基礎知識を学ぶ -群馬における受け入れと統合の理解に向けて-」は、中村宗之が報告を担当し、オンライン会議ソフトZoom を利用して開催された。報告の参考文献として、永吉希久子『移民と日本社会 —データで読み解く実態と将来像—』(中公新書, 2020年)を主に用いた。本報告の目的は、日本やとくに群馬における移民の現状に関して基礎的な情報や知識をまず確認するとともに、2020年度から3年間JSAの研究助成に採用された共同研究「群馬県に居住する外国人が抱える諸問題の総合的研究 -雇用・経済・生存・教育・医療の各観点から-」の作業に資することにある。参加人数は報告者を含めて6名で、報告後には活発な質疑応答がなされた。以下、報告の概要を掲載する。

1. 移住と移民
 日本では、移民政策をとらないという政府の立場のために、移民を「永住を意図して移り住んだ人」として、(永住を一応意図しない)外国人労働者と区分することが多い。しかし、滞在の長期化につれて定住するケースや、出身国と居住国の間を行き来するケースなどがあり、問題の把握のためにはこの区分は有効ではない。国連機関などでは、移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々を移民と扱うことが多い。3カ月から12カ月間の移動を短期的移住、1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住とする。

 日本の国勢調査では、出生国の統計はとられておらず、本人と親の国籍のみを聞いている。日本国籍を取得した移民は、移民または外国人としては数えられず、日本で生まれても国籍が日本以外なら、移民ではないが外国人として数えられることになる。 現在の日本における移民は、人口の2%弱(200万人前後)と推計される。移民的バックグラウンドを持つ人の割合は、2065年までに全人口の12%になるという予測がある。

2. 日本における移民

 日本は明治期から1973年まで、アジア、北米、南米などに移民を送り出してきた。高度経済成長期の労働力は国内農村からの流入や女性労働力の増加によりまかなわれてきたが、バブル期には労働者に敬遠される3Kの職場で人手不足が強まり、また円高傾向もあり、正規の資格を持たないままの外国人労働者の就労が目立つようになった。そこで入管法の改正が行われ、中国やブラジルからの移民が急増する。

 日本ではこの時期以降さまざまな法改正がなされ、 留学生も含め移民の受け入れが増加していく。諸外国と比較したときの日本の移民受け入れの特徴は、企業が主導していることで、また労働市場テスト(国内では必要な労働者数を集められないことを実証する)や、 人数の受け入れ上限の設定がないことである。

 現在日本には、主にホワイトカラー職からなる専門職移民が30万人おり、これは中国とベトナムの出身者で約半数を占める。また、高度人材ポイント制度を利用した本来の専門職として1万5千人程度がいる。これは中国などアジア出身者が大部分を占める。留学生は約30万人が存在する。特定技能の資格での移民は数百人にとどまる。

 単純労働について移民労働で賄いたいというニーズは、人手不足の中小企業を中心として多い。賃金が低い、労働時間が長い、就労環境が悪いといった日本人労働者に避けられる企業や職場が、雇用調整のしやすさという点からも、移民労働を求める。

 現在の日本でそのような単純労働者を受け入れる方法には、いくつかある。1つには定住者資格である。これは難民や3世までの日系人、中国残留邦人である。この資格には職種の制限はない。このうち日系ブラジル人は、単純労働に集中している。彼らはさまざまなつながりを通じて日本に来る。リーマンショックの前にはこの枠組みで約32万人の移民がいたが、その後24万人にまで減少した。この資格では労働者は企業間を自由に移動することができるので、労働条件の悪いところから良いところに移ることができる。そのような条件の悪い企業にとっては、使い勝手が悪い制度となる。

3. 技能実習制度

  そこで利用されるのが、2つ目の方法である技能実習制度である。この制度は現在製造業を中心にさまざまな職種に拡大しているが、約32万人が存在する。中国籍の移民の比率が低下し、籍の者が半数ほどを占めている。受け入れの経路は、大企業がそれぞれ単独に行うものは少なく、ほとんどが団体管理型の受け入れ方式による。商工会、中小企業団体、農業組合などによる。

 技能実習制度には大きな問題が指摘されている。労働者の権利が十分に守られておらず、最低賃金を下回るような賃金水準や、長時間労働といった劣悪な労働条件など、悲惨な事例がしばしば告発される。雇用先を移動する権利が基本的になく、現代の奴隷制とも呼ばれるような状態が続いている。

 さらに、およそ1万人と推測される不法就労者が移民として存在する。単純労働が資格上認められない場合や、すでに在留資格が失効している場合などがある。農村などへの結婚移民は、無償のケア労働者の側面を持つともとらえられる。

 なお難民については、日本の受け入れは少なすぎると批判され続けている。

4. 移民受け入れの経済的影響

 経済的影響を考える際には、正規雇用・高賃金の第1次労働市場と、非正規雇用・低賃金の第2次労働市場とに分けるのがよいと考えられる。移民の受け入第2次労働市場が悪影響を受けるケースはあるようだが、プラスの影響があるという調査も存在する。

 移民が福祉国家への貢献者なのか、受益者にとどまるのかについては、移民の年齢や所得によって異なるといえる。難民を多く受け入れたスウェーデンでは、難民の失業率が高く、社会保険へのマイナスの影響が見られた。それに対して、労働移民や高技能移民の場合にはプラスの影響が一般的にはみられる。

5. 移民受け入れの社会的影響

 移民による犯罪の増加を不安に感じる人々の割合は比較的高いが、実際には根拠のない不安であることが多い。移民の経済的な成功や安定の見込みが少ないと、犯罪を誘発することはあるようだ。ゴミ出しや騒音、違法駐車、区費の支払いなどをめぐって、近隣住民とトラブルになることがある。この解決策としては、子どもの学校や近隣関係、趣味などを通じて対等な立場での接触があることが、他集団の構成員に対する偏見の低下を促すといわれる。人材派遣業者や日本語教室、自治体活動、行政の関わりなどの回路も重要である。ヘイトクライムやヘイトスピーチについては、法的な対処なども必要となる。

6. あるべき統合像

 同化主義とは、その国で主流の文化への同化を求める考え方であるが、これは採用すべきではないし、採用することは不可能でもある。多文化主義とは、文化や価値に関して、集団として異なる扱いを受ける権利を認めるものである。しかし今日ではこの多文化主義は、移民の社会統合に失敗したという評価がヨーロッパや北米などでなされている。このような経緯の中で、市民的統合という方向が現在試みられている。これは、受け入れ国の言語や歴史、社会の仕組みについての知識と、自由民主主義的価値観を移民に身に付けてもらった上で、文化的多様性を認め合うものである。多くの事例をもとに、さまざまな議論がなされている。

7. 群馬における移民

 現在群馬県には、約6万人の外国人が居住している。国籍別の上位5カ国はブラジルの約1万2千人を筆頭に、ベトナム、中国、フィリピン、ペルーの順となっている。市町村別の住民数では、伊勢崎市の約1万3千人が最も多く、太田市、大泉町、前橋市、高崎市と続いている。人口比では大泉町が最も高い。         

                          文責 中村宗之 氏


2020年11月19日木曜日


 先日7月15日 JSAGの夏季セミナーをZoomで行いました。

報告が遅れたことをお詫びします。

菅首相による日本学術会議会員の任命拒否に対する声明


 2020年10月1日、菅義偉首相は、日本学術会議が推薦した新任会員候補者6名の任命を拒否しました。しかし、菅首相は、その本当の理由を説明しておりません。国民を代表する政権は、政権が行うあらゆる行為について、その理由を国民に真摯に説明する責任があります。そこで私たちは6人の任命拒否について以下の点の説明を強く要望します。
まず、今回の任命拒否の理由について、国民の中では、6名が安保関連法や特定秘密保護法、共謀罪等に反対していたからではないかという推測がなされているにもかかわらず、菅首相は、「総合的、俯瞰的に判断した」「推薦通りに任命しなければならないわけではない」「人事に関することで、お答えを差し控える」等と答えるのみで説明責任を全く果たしていません。それどころか、「民間出身者や若手が少なく、出身や大学に偏りがある」「閉鎖的で既得権益のようになっている」などと、問題を日本学術会議の組織問題にすり替えています。このような詭弁を直ちにやめて、菅首相は任命拒否の理由について国民に真摯に説明をして下さい。
また、1983年、当時の中曽根康弘首相は、日本学術会議会員について「政府が行うのは形式的任命に過ぎない」と国会で答弁し、2004年に日本学術会議法が改正された際にも「首相が任命を拒否することは想定されていない」という趣旨の政府文書がつくられています。それにもかかわらず、菅内閣は、今回の任命拒否があってもなお「1983年の政府解釈を変更していない」と言い張っています。これも詭弁としか言いようがありません。この点についても、菅首相は国民が納得できるような真摯な説明をして下さい。
 このような任命拒否によって、研究者が時の政権から独立して自由に研究活動をすることができなくなり、学問の自由(「憲法第23条」)が侵害されることを強く危惧します。学問の自由は、社会の歴史や現状をさまざまな角度から検討し、将来の選択肢を国民に広く提示するために不可欠なものです。
研究活動に携わる私たちとしては、6名を速やかに任命することを菅首相に強く求めます。
以上
                                                                               2020年11月18日
                                                                               日本科学者会議群馬支部