市販の除菌商品がほんとうに微生物の増殖をおさえているのか?
JSAG夏季セミナー8月4日
以前より大量の除菌,殺菌商品が販売されています.特に令和2年に入ってからは、新型コロナウイルス感染症にアルコール製剤が効果的であるとされるに伴って、市場からアルコール製品が激減し、それに伴って殺菌効果が疑われるような商品の市販例が散見されたことから、今回微生物を用いて、その効果を比較検証しました.
予備実験として、学内環境としての教室や食堂の落下細菌や、同場所において接触感染の対象となる細菌がどの程度存在するのか、例えば、学生が頻繁に使用している机の上のどの程度細菌が存在するのか,鍵やコイン、ドアノブや手すりにどの程度の細菌が存在するのか、手洗いに使用される液体洗剤はそのような細菌を除去できるのかを調べた.また我々の手指や鼻腔内には何種類かの常在菌(ブドウ球菌類、大腸菌類、Bacillus, spp.)が存在するが、筆者は自分の手指や鼻腔内に由来する細菌および市販のDHαを用いてSCD寒天培地に播種し、この培地に出現するコロニー数を用いて,消臭剤,アルコール製剤,アルコール系ジェル,ベンザルコニウム系消毒剤,次亜塩素酸水の4種類について,商品の効果を確認した.なお、市販商品のアルコールの濃度は、Balance World Incのポータブルアルコール屈折計(KETOTEK model RHW-80ATC)で計測した.
結果
基本的な本学の環境を認識するために、さまざまな部屋の落下細菌がどの程度存在するのかをSCD培地で調べてみたところ,食堂では落下委細菌が思いのほか多く,人の出入りの少ない部屋の8倍程度存在した.細菌の種類は大腸菌とBacillusの一種がほとんどであった.他の場所は掃除業者の方々の除菌のため、少数しか存在せず,存在してもアルコール製剤でほとんど除去された.また,筆者の所持している鍵やコインにも細菌が付着していることも判明した.
手洗いの効果についても検討したが,洗剤を利用し,かなり丁寧に洗っても,常在菌は半分程度しか減少しないことが判明し,手洗いのむつかしさを痛感した.これらの菌はアルコール製剤で97%程度減少した.(詳細なデータは割愛)
筆者は鼻粘膜常在菌(ほとんどはブドウ球菌類)をSCD培地に塗布して,これらの菌が除菌商品でどの程度減少するのか確認した.その結果,各表に示すように,アルコールに類する物が含まれている消臭剤,アルコール製剤およびアルコールを含むジェル剤,アルコールを含む塩化ベンザルコニウムでかなりの効果があった.以外なことに,消臭剤は,90%以上の菌が減少し,かなりの効果があることが判明した.しかし,明らかにアルコール濃度の低いアルコール製剤,アルコール濃度の低いジェル剤が存在しており,製品によっては菌の増殖を助けるものもいくつか存在した.規格表記に準じていない市販の次亜塩素酸水には,効果が無いものがあった.容器には使用期限が表記されていなかったり,本来次亜塩素酸水は製造したそのままの液を食品等に流しかけて滅菌するものであるので、密閉容器に入れてスプレーすることで明らかに細菌が飛散していることがわかるものもありました.
市販の商品には成分の詳しい表記の無いものが多くあり、どの成分がその効果に影響をしたかを確認することはできなかったが、明らかに+の効果のあるものと,-の効果のあるものがあったと考えられた.ジェル製剤においても、培地に垂らした時点でジェルが水様に変化した時のアルコール濃度が明らかに低下する物もあった。
結論 結果は,生物試料の限界としての播種方法の定量性に問題点があり,結果は明確ではなかったが,市販商品の表示に多くの問題点があることが判明しました.
次亜塩素酸ナトリウムの効果
次亜塩素酸ナトリウム(ハイター、ブリーチなど)は原液を100倍以上に薄めると効果がかなり減少した.(原液約5%の溶液を100倍で次亜塩素酸ナトリウムは0.05%となる=グラフ表示では1%以上で効果あり)数字は残留塩素濃度測定器で測定した数字である.この効果は作製した直後での数字で、2週間後同じ希釈液で塩素濃度は同じでも殺菌効果は半分以下となりました.実験で使用しているものは、購入後半年以上経過していることもありますが、経産省などが標準的に示す希釈では、やや殺菌力は弱いので2%以上がベストと考えられます.
殺菌灯(253.7nm)を用いた微生物への殺菌効果の検証
至近距離では1分以内の照射で、ほぼすべての常在菌が殺菌されました.天井灯として設置した殺菌灯においても、その効果は若干弱くなるが、床(天井から床まで280㎝)に資料を設置した場合にも30分程度の照射で殺菌効果が実証されました.殺菌灯の欠点は、①その直行性にあり障害物があると効果は非常に減っています。②また皮膚(いわゆる日焼けになる)や目に対して害があるので、その点は注意する必要があります.
講演後の討論では、新型コロナウイルス感染症に多くの質問が集中しました。新型コロナウイルス感染症の接触感染の割合に関しては、まだデータはありませんが、従来のインフルエンザなどの感染症によれば3割というデータがあるので、飛沫感染や、空気感染以外にも接触感染に気を付けることも大事なのではないかと思われる.今回の実験で、演者が医学部での研究から手術室に出入りできる立場にあったこと、両親の3回のICUでの治療の必要から、そこに出入りできる立場にあったことからすでに実践していましたが、いまさらながら、手洗い(手指衛生という)の重要さ、必要な濃度(50%以上)のアルコール製剤の効果はもちろん、意外にも消臭剤が効果的であること、もちろん病院で使用されている塩化ベンザルコニウムとアルコールを含む製剤も効果があることが確認されたことが貴重な体験でした.
JSAG夏季セミナー8月4日
以前より大量の除菌,殺菌商品が販売されています.特に令和2年に入ってからは、新型コロナウイルス感染症にアルコール製剤が効果的であるとされるに伴って、市場からアルコール製品が激減し、それに伴って殺菌効果が疑われるような商品の市販例が散見されたことから、今回微生物を用いて、その効果を比較検証しました.
予備実験として、学内環境としての教室や食堂の落下細菌や、同場所において接触感染の対象となる細菌がどの程度存在するのか、例えば、学生が頻繁に使用している机の上のどの程度細菌が存在するのか,鍵やコイン、ドアノブや手すりにどの程度の細菌が存在するのか、手洗いに使用される液体洗剤はそのような細菌を除去できるのかを調べた.また我々の手指や鼻腔内には何種類かの常在菌(ブドウ球菌類、大腸菌類、Bacillus, spp.)が存在するが、筆者は自分の手指や鼻腔内に由来する細菌および市販のDHαを用いてSCD寒天培地に播種し、この培地に出現するコロニー数を用いて,消臭剤,アルコール製剤,アルコール系ジェル,ベンザルコニウム系消毒剤,次亜塩素酸水の4種類について,商品の効果を確認した.なお、市販商品のアルコールの濃度は、Balance World Incのポータブルアルコール屈折計(KETOTEK model RHW-80ATC)で計測した.
結果
基本的な本学の環境を認識するために、さまざまな部屋の落下細菌がどの程度存在するのかをSCD培地で調べてみたところ,食堂では落下委細菌が思いのほか多く,人の出入りの少ない部屋の8倍程度存在した.細菌の種類は大腸菌とBacillusの一種がほとんどであった.他の場所は掃除業者の方々の除菌のため、少数しか存在せず,存在してもアルコール製剤でほとんど除去された.また,筆者の所持している鍵やコインにも細菌が付着していることも判明した.
手洗いの効果についても検討したが,洗剤を利用し,かなり丁寧に洗っても,常在菌は半分程度しか減少しないことが判明し,手洗いのむつかしさを痛感した.これらの菌はアルコール製剤で97%程度減少した.(詳細なデータは割愛)
筆者は鼻粘膜常在菌(ほとんどはブドウ球菌類)をSCD培地に塗布して,これらの菌が除菌商品でどの程度減少するのか確認した.その結果,各表に示すように,アルコールに類する物が含まれている消臭剤,アルコール製剤およびアルコールを含むジェル剤,アルコールを含む塩化ベンザルコニウムでかなりの効果があった.以外なことに,消臭剤は,90%以上の菌が減少し,かなりの効果があることが判明した.しかし,明らかにアルコール濃度の低いアルコール製剤,アルコール濃度の低いジェル剤が存在しており,製品によっては菌の増殖を助けるものもいくつか存在した.規格表記に準じていない市販の次亜塩素酸水には,効果が無いものがあった.容器には使用期限が表記されていなかったり,本来次亜塩素酸水は製造したそのままの液を食品等に流しかけて滅菌するものであるので、密閉容器に入れてスプレーすることで明らかに細菌が飛散していることがわかるものもありました.
市販の商品には成分の詳しい表記の無いものが多くあり、どの成分がその効果に影響をしたかを確認することはできなかったが、明らかに+の効果のあるものと,-の効果のあるものがあったと考えられた.ジェル製剤においても、培地に垂らした時点でジェルが水様に変化した時のアルコール濃度が明らかに低下する物もあった。
結論 結果は,生物試料の限界としての播種方法の定量性に問題点があり,結果は明確ではなかったが,市販商品の表示に多くの問題点があることが判明しました.
次亜塩素酸ナトリウムの効果
次亜塩素酸ナトリウム(ハイター、ブリーチなど)は原液を100倍以上に薄めると効果がかなり減少した.(原液約5%の溶液を100倍で次亜塩素酸ナトリウムは0.05%となる=グラフ表示では1%以上で効果あり)数字は残留塩素濃度測定器で測定した数字である.この効果は作製した直後での数字で、2週間後同じ希釈液で塩素濃度は同じでも殺菌効果は半分以下となりました.実験で使用しているものは、購入後半年以上経過していることもありますが、経産省などが標準的に示す希釈では、やや殺菌力は弱いので2%以上がベストと考えられます.
殺菌灯(253.7nm)を用いた微生物への殺菌効果の検証
至近距離では1分以内の照射で、ほぼすべての常在菌が殺菌されました.天井灯として設置した殺菌灯においても、その効果は若干弱くなるが、床(天井から床まで280㎝)に資料を設置した場合にも30分程度の照射で殺菌効果が実証されました.殺菌灯の欠点は、①その直行性にあり障害物があると効果は非常に減っています。②また皮膚(いわゆる日焼けになる)や目に対して害があるので、その点は注意する必要があります.
講演後の討論では、新型コロナウイルス感染症に多くの質問が集中しました。新型コロナウイルス感染症の接触感染の割合に関しては、まだデータはありませんが、従来のインフルエンザなどの感染症によれば3割というデータがあるので、飛沫感染や、空気感染以外にも接触感染に気を付けることも大事なのではないかと思われる.今回の実験で、演者が医学部での研究から手術室に出入りできる立場にあったこと、両親の3回のICUでの治療の必要から、そこに出入りできる立場にあったことからすでに実践していましたが、いまさらながら、手洗い(手指衛生という)の重要さ、必要な濃度(50%以上)のアルコール製剤の効果はもちろん、意外にも消臭剤が効果的であること、もちろん病院で使用されている塩化ベンザルコニウムとアルコールを含む製剤も効果があることが確認されたことが貴重な体験でした.
つづく質疑応答では、現在の政府の対新型コロナウイルス対策の評価、ワクチンの接種状況や今後の見通し(ワクチン供給)、ワクチン接種の2回目が必要な理由とワクチンの効果などに関して質問があり、演者の知る限り質問に対する答えをしました.群馬県内では8月には感染者の急増がみられ、前橋市内のある病院ではすでに満床であること、群馬県東部での感染者を収容する病院が足りず、保健所が機能していないことの危惧が紹介されました.また、いわゆるデルタ株のブレイクスルー感染に関しては、ワクチンを接種しても、感染していることから3回目の接種が必要となる状況もありますが、その場合、アストラゼカのワクチンは国内生産しているので、5000万回は安定供給できる見通しであること、政府の政策はワクチン頼みで、まず当然行うべき業者や個人に対する手当が業者丸投げで、10兆規模の予算の多くは、人々の手に届いていないことも指摘されました。このことはアメリカ、ドイツでは3日~7日後に申請者の現金が届いたこととは好対照ということを指摘しておきます。
またこの討論で触れなかったのですが、演者としては、大規模PCRや短時間で結果の判明する抗原キットなどは当然行うべきと考えられることをすべて行うべきであることを指摘しておきます。
(文責 群馬県立健康科学診療放射線学部 青木武生)
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