日本科学者会議群馬支部( JSAG ) 総会記念セミナーについて
テーマ:桐生市の生活保護問題について
日時:2025年5月28日(水)18時00分〜19時30分 参加無料
講師:斎藤 匠氏(斎藤法律事務所・弁護士)
場所:高崎経済大学212教室(2号館1階)
参加者はZOOM参加者を含め23⼈。司会は藤井正希先生(群馬大学社会情報学部)が行った。
斎藤 匠氏講演内容
事件の発端
2023年7月26日に桐生市在住の50代のA氏は生活保護の申請を行った。その時、支援者が同行したが、当初同席や発言を否定された。8月9日に、月額7万1500円程の生活扶助費と家賃支給が決定された。桐生市は、一括ではなく1日1000円の分割支給し(光熱費や電話代請求書を示せば別途支給された)、総額でも半額程度しか渡していない。月曜日から金曜日まで、自分の足で市の保護係窓口に来る前に、ハローワークに行かせ、そこで受付の判子をもらわなければ支給しない、という扱いだった。A氏は、これはおかしいと思い、支援団体の司法書士に相談した。全国的にも前例のない事件だったので、大きく報道された。
A氏の事案の報道により明らかになる多く問題行為
・報道を見た他の生活保護利用者から支援団体に対し、分割支給・一部不支給というA氏の事例と類似した相談が多数寄せられた。
・市による扶養届の偽造が疑われる事案や、扶養届に基づく収入認定が違法な事案もあった。
・窓口での申請拒否(いわゆる水際作戦)相談も多かった。
・桐生市が、利用者と同じ姓の認め印を多数保有して、利用者名の文書を承諾なく作成していたと思われる事案があった。
・桐生市管理の認め印は1948本あった。勝手に受領証に押印していた事例もあったことも確認されている
・民間の金銭管理団体による金銭管理の事実上の強制があった。
・これらの対応を管理していた助川直樹保健福祉部長(当時)は、事件発覚前に退職している。
・金銭管理を行っていた外部の民間団体、「社会福祉協議会」、「日本福祉サポート」、「ほほえみの会」
第三者委員会へ寄せられた情報提供の内容 (2025年1月6日から23日までの情報。)
・生活保護利用者につい て、「ろくでもねぇ」「あいつらはくず」と言ってはばからない職員がいた。(通し番号75)
・保護係の職員による恫喝(どうかつ)、罵声は日常茶飯事で、他課さえ聞く堪えない内容だった。 しかも誰も注意せず、制止しなかった。自浄作用がない(同49)
・特定の職員がよく怒鳴っているのが、近くで仕事をしているときに聞こえた。 これは周知の事実だと思う(同91)以上いずも桐生市役所職員から情報。
・家計簿が1円でもあわないと怒鳴られた。眼鏡を購入した際に「こは税金ですよ」と怒鳴られた。(同15・利用者)
・担当職員が窓口の男女に「てめえら」 「ふざけんじゃーぞ」「さっさと仕事しろや」などと大声で怒鳴りつけている場面をみた(同97・市民 )
・何故、このような対応がなされていたのか?
国家賠償請求事件の提訴
・2024年4月3日に提訴
・原告は、A氏、B氏の2名 被告は桐生市
・B氏も、桐生市から生活扶助費として7日毎に7000円(1日あたり1000円)と光熱費等が渡されていた。
・請求額は1人あたり25万円の慰謝料と10%弁護士費用、の一部請求とした。
・違法行為は、①A氏、B氏ともに生活扶助費の一部不支給(生活保護法31条2項違反。)
・②A氏について、ハローワークに赴いて、求職活動をすること支給条件として、平日毎に来所させて手渡する(即ち過度な分割支給の)違法。
・2024年9月17日に、3人目の原告としてC氏が提訴。
・C氏は、上記①の一部不支給の違法性他に、③扶養届に基づく収入認定の違法性を主張。
・C氏には母から月額6000円相当の食品による現物援助があるとして、生活保護利用当初から同額が減されていたが、実際には援助はなく、桐生市は確認を怠った点で法3条、8条及び31条2項違反
裁判での桐生市の主張
・一部不支給については法31条2項違反であること認めた。
・組織的な行為であることも認めた。
・未支給の現金については、利用者毎に封筒で管理し、封筒の表裏に手書きのペンで収支を記載していた。
・一方で、分割支給について桐生市は、男性の同意を得たと主張した。但し、同意を得たから違法では無いとは言ってない
・ハローワークで判子をもらうことを扶助費の支給条件はしていない、と主張
・扶養届による現物送付を確認していない点については、法61条(届け出の義務)を根拠に、桐生市行為は違法で無いと主張してる。
裁判の目的
・出来る限り詳細に求釈明を繰り返し、本件の違法行為が組織的なものであることを認めさせる。
・本件違法行為については、福祉事務所長以下職員全が了解して実行していたこと、末端の職員の行き過ぎた行為ではないことを明らかにする。
・その上で、何故このような行為が実行されたのかその理由を明らかにし、再発防止に何が必要なのかが明らかになればよい。
群馬県の特別監査の要点
・2024年6月19日通知によれば、 不適切な対応の主なものとして、
・①当月内に保護費を全額支給していな事案(法第31条第2項違反)
市の主張:一度支給した保護費を市が預かる・・・地方自治法235条の4、第2項に違反)
・②過度な分割支給
・③市が保管している認印の使用(件数の特定困難)
・④窓口支給日と異なる日付を受領簿に記載
・⑤行方不明の親族名で提出された「扶養届」で収入認定、を挙げている。
・被保護者数の減少については、申請権の侵害が疑われる事案が多数あること、境界層該当措置に係わる却下については、仕送りの強要が疑われるものや、実態が把握できない事案が多数あるとの指摘があった。
桐生市長コメント(令和7年3月28日)
・本市生活保護の利用者数がおよそ10年で半減したことについて、その時期の桐生市福祉事務所の組織として認識に重大な問題があり、そこから生じた執行により、申請権の侵害が生じていたことが大きな要因であったと厳粛に受け止め、深く反省しております。
・3つの不適切事案にきましては、「最低生活保障」及び「自立助長」という制度の目的に適合しない指導や、様々な不適切な対応があり、ご指摘の通り極めて不正常な組織体制に陥っていたものと改めて認識いたしました。
・生活保護制度の崇高な理念を身勝手な解釈で捻じ曲げ、組織風土の中に形成された、悪しき慣行や極めてずさんな事務処理の数々について、福祉事務所という、他部局にはない組織構造とはいえ、問題発覚まで一切気づけなかった私どもの責任は重く、心から恥じております。
・制度利用者並びに相談者の皆様に対して、 耐え難い苦痛や不利益を与えてしまったこと、また、桐生市民の誇りを著しく傷付けてしまったことに対しまして、心よりお詫び申し上げます。
・被保護者・受給の呼び方について、この報告書が使っっている、「利用者」に統一し、徹底する
・適正な事務の執行を今後維持していくために、来年度は、群馬県へ職員派遣研修実施する方向で調整している
・生活保護行政の運営において模範的な先進自治体への視察研修つきましも早期実施向け調整している
・職員体制につきましては、ケースワーカーを1名増員し、 8名体制とし法定人数を満たす
・査察指導員も1名増員し、 2名体制とすることでケースワークの実施体制を強化する
・ケースワーカー8名のうち、社会福祉士資格を有するケースワーカーを2名増員し 3名体制とし、女性ケースワーカーを1名増員し 3名体制とする
・医療や健康面からの生活支援充実を図るため、保護係に保健師2名を配置すること決めた
・また、専門性を踏えた対応を強化するため、キャリアコンサルタント資格を有する就労支援相談員および、ケースワーカー経験のある面接相談員を各1名ずつ配置することし、保護係への警察OBの配置はいたしません。
・認識ちがいを防ぐことを目的した窓口相談の録音実施
・総務部に生活保護対応相談窓口を設置し、利用者がケースワーカーの話しにくい相談や苦情について、過去の問題も含め受け付ける体制を構築する。
・生活保護業務運営の健全化計画を策定し、法令順守徹底を図る中で、組織として改善状況を随時、確認するとともに、利用者への適正な対応を維持していくためのチャック機能を有するコンプライアンス体制を構築したいと考えている。
・こうした一連の再発防止策を速やかに実現するよう、総務部長、保健福祉部長に指示した。
・桐生市を被告とする国家賠償請求訴訟につきましても、 本報告の内容を踏まえまして、訴訟委任している代理人弁護士とも協議のうえ、適切に対応していく。
・本市の不適切な生活保護業務につきましては、利用者の方、市民の方のみならず厚生労働省、群馬県を始め、多くの関係機関の皆様に、多大なるご迷惑おかけし、大変申し訳なく思っている。
・今後、二度とこのような事態を起さないよう、市長である私が先頭に立ち、福祉事務所職員一丸となって生活保護行政の一層の改善を進めることで、信頼回復に努めてまいります。
・最後に、責任者である私につきましては、給料月額の100 分の30 、6か月、副市長は給料額の100 分の20 、6か月、減額する議案を次期議会に提出したいと考えております。
・関係職員につきましても、管理等の処分が必要と考えおり、「桐生市行政審査委員会」に諮った上で、後日、公表させていだきと考えております。
・桐生市福祉事務所が、真に生まれ変わったと市民の皆様から認めていだけるよう、生活保護制度を必要とする方々、制度利用する方々に寄り添った適正な運用に全身全霊を傾注してまいります。
群馬・桐生市の生活保護問題 幹部職員など7人を懲戒処分
2025年5月12日 20時0分群馬テレビニュースを改変
生活保護費の不適切な支給を巡る問題で、桐生市は、管理監督者という立場にあった幹部職員など7人を懲戒処分にしたと発表しました。懲戒処分となったのは、生活保護業務を管理監督する立場にあった 50代の部長級から課長補佐級までの5人と生活保護費の支給業務に携わっていた40代の主査と30代の主任のあわせて7人です。50代の職員5人は、管理監督する立場にありながら、長年にわたり行われてきた生活保護業務における不適切な事務処理を改善することができず市の信頼を著しく失墜させたとしています。また、30代の主任については、生活保護費の支給決定を怠り、福祉課に保管してあった印鑑を本人の同意なく生活保護費の受領簿に押印していました。市は、50代の職員5人と30代の主任の6人を減給10分の1、1カ月の処分にし、40代の主査を戒告処分にしました。桐生市の荒木市長は、「生活保護制度利用者並びに相談者の皆様に対して、耐え難い苦痛や不利益を与えてしまったことに心よりお詫び申し上げます。生活保護制度を必要とする方々や利用する方々に寄り添った適正な運用に全身全霊を傾注してまいります」とコメントしています。
荒木恵司市長は「生活保護の利用者や相談者に耐えがたい苦痛や不利益を与えてしまい心よりお詫び申し上げます。制度を必要とする方、利用する方々に寄り添った適正な運用に全身全霊を傾注してまいります」とコメントしている。この問題を巡っては、荒木市長の給与を30パーセント、森山享大副市長の給与を20パーセント、それぞれ6か月減額する条例案も議会で可決されている。
文責 青木武生