2022年12月7日(水)JSAG 18時30分~20時
冬季セミナー講演要旨(ZOOMセミナー)
冷媒フロンと2050カーボンニュートラル
〜私たちはエアコン、冷蔵ショーケースを使い続けられるか?〜
講師 西薗大実(群馬大学名誉教授)
1.フロンの光と影
1930ごろアメリカで冷媒として開発されたフロン(CFC)はその物性(熱力学的特性、安定性、低毒性、低腐食性、難燃性…)から夢の物質と言われた。しかし、20世紀終盤から3つのリスク、第1のリスク…オゾン層破壊、第2のリスク…気候変動(温室効果)が明らかになり削減を余儀なくされている。近年、さらに第3のリスク…グリーン冷媒の毒性が指摘されるなかで、エアコン、コールドチェーン(食品低温流通)など現代社会に必須のインフラ維持のためのリスク・マネジメントを考察する。
2.フロン問題に対する関心と現状
オゾン層破壊:1980年代初頭に顕在化、1985年ごろから急速に関心が高まったが現在は薄れている。オゾン全量南半球分布図(南極オゾンホール)によれば、まったくニュースとして報道されないが2018年には 過去最大級、2022年もそれに次ぐ大きさで破壊は継続している。オゾンホール面積は南極大陸の約2倍(日本の約80倍)であり、年間のオゾン損失量は約1億トン/年である。
気候変動:フロンの温室効果は、1997年気候変動枠組条約京都議定書で多くの人が知るところとなったが、CO2に比べてマニアックで一般にはわかりにくいという印象。フロン(国内の法的正式名称「フロン類」)とはフルオロ・カーボン:フッ素と炭素が結合した物質(C-F結合)であり、CFC:クロロ(塩素)・フルオロ・カーボン、HCFC:ハイドロ(水素)・クロロ・フルオロ・カーボン、HFC:ハイドロ・フルオロ・カーボンなどの種類がある。塩素がオゾン層を破壊するので、CFC、HCFCに代わりHFCが開発された。代替(だいたい)フロンと呼ばれるが、フロンの一種である。すべてのフロンは強力な温室効果ガスで、その理由は、CーF結合の吸収領域が波長8~12μmの「大気の窓」(地球の放熱帯域)をふさぐためである。HFCの温室効果について、Veldersらは「HFCの消費・排出は、主に途上国における冷凍・空調などの需要の伸びから今後数十年大幅に増加すると推定され、新しい規制が設けられないと仮定すると2050年の世界の排出量: CO2 450ppm安定化シナリオにおいて推定されるCO2排出量と比べて、HFC排出量はその28~45%にもなるだろう.」と述べている。日本の温室効果ガス排出量(2020年度確報値:環境省)においてもHFCの増加が顕著である。
グリーン冷媒の毒性:この問題に関する一般の関心は極めて低い。グリーン冷媒とは、近年使用の始まった分解性の高いFガス(フッ素系ガス)である。CーF結合は赤外領域を吸収するので、温室効果を弱めるには分解性を高めて大気から除くしか方法がない。例えば代表的な従来のHFCであるHFC-134a(CF3-CFH2)の大気中半減期13.8年に対して、新しいグリーン冷媒(HFCの一種だが、二重結合を導入して分解性を高めており、区別のためHFOと呼ばれる:オレフィン=二重結合)のHFO-1234yf(CF3ーCF=CH2)のそれは10.5日である。しかし、分解産物 TFA(トリフルオロ酢酸:CF3ーCOOH)やHF(フッ化水素)などによる、住宅火災時の毒性や地球の物質循環への現時点では予測できていない打撃(生態系被害)などを及ぼすことが否定できない。安定性(分解しにくい)=性能保持、低毒性、不燃性…こそが、もともとのフロンのメリットではなかったのか?
3.フロンの規制
フロン規制の国際条約として、「オゾン層保護のためのウィーン条約」(モントリオール議定書1987~、同キガリ改正2016~)、「気候変動枠組条約」(京都議定書1997~、パリ協定2015~)があり、その国内法として「オゾン層保護法」で生産・消費規制(CFCは1995年末全廃、HCFC2019年末実質全廃、HFC削減)、「温暖化対策推進法」、「フロン排出抑制法(旧フロン回収・破壊法)」、「自動車リサイクル法」、「家電リサイクル法」などで冷媒フロン類の回収、排出抑制、みだり放出禁止を定めているのだが…
4.冷媒フロン大量排出の実態
使われている機器は大別して3分野で、①業務用冷凍空調機器(スーパーやコンビニのショーケース、ビルのエアコン、工場や倉庫の低温設備、自動販売機など大小さまざま)、②カーエアコン、③家電(ルームエアコン、洗濯乾燥機など・※現在の家庭用冷蔵庫はノンフロン)
これらの機器から約5千万トン-CO2/年(2万数千 重量トン)もの冷媒フロン排出。筆者らは2008年に使用時漏えいが2万トン以上に上ることを指摘し、経産省が調査を行い明らかとなった。その内訳は、①業務用冷凍空調機器:使用時排出(漏えい)1万トン/年、廃棄時等未回収(しない・できない)8千トン/年、②カーエアコン:使用時排出(漏えい)2千トン/年、中古車海外流出2百万台=フロン1千トン/年※年間廃棄5百万台のうち自動車リサイクルルートでの処理率60%程度(3百万台)、③家電:トラックで回る廃棄業者へフロン4千トン/年※年間廃棄7百万台のうち家電リサイクルルートでの処理率40%程度(3百万台)
5.最近のインパクト、急速な規制強化の動き
2015年フロン排出抑制法指針:中長期的に「フロン類を廃絶することを目指す」、気候変動枠組条約パリ協定:今世紀後半、人間活動による温室効果ガス排出量を実質的にゼロに、2016年モントリオール議定書キガリ改正→2018年オゾン層保護法改正:HFC生産消費削減最終的に2036年GWP換算85%削減
最近の審議会(環境省・中央環境審議会フロン類等対策小委員会、経産省・産業構造審議会フロン類等対策WG合同会議に見るフロン類対策の動向では、現状としてHFC排出のほとんどが冷媒であり、今後はグリーン冷媒へ転換し2050CN(2050年カーボンニュートラル)へ
6.まとめ、今後の方向性
Fガス(フッ素系ガス)である限り、「温室効果」と「毒性」の両者は二律背反の関係にあると言わざるを得ない。夢の物質といわれたCFCやHCFCが、オゾン層破壊と温室効果という2つのリスクによって立て続けに規制されたことで、対策コストが必然的に発生した。企業としては冷媒転換など設備投資を行う場合には、短期間で追加投資を強いられることがないように、新たな環境リスクについても考慮する必要がある。「低GWP」フロンを無制限に使用した場合、オゾン層破壊、温室効果に続く、「第3のリスク」として毒性がクローズアップされることになるのではないか。スーパーやコンビニの環境への取り組みは、消費者が一目でわかるようなレジ袋削減・トレー店頭回収、LED照明化などの目立つものだけではなく、バックヤードでの地味な取り組みではあるが気候変動対策として大きな効果を上げるフロン対策に力を注いでほしい。冷凍冷蔵・空調は現代社会に不可欠なインフラ。最後の決め手は環境負荷の小さい安全な冷媒(アンモニア、CO2、炭化水素などの自然冷媒)への転換しかない。
文責 西薗大実 (講演者本人)
UPが遅くなり申し訳ございませんでした。(ニュース担当者)
0 件のコメント:
コメントを投稿